漢方治療について

令和4年7月15日更新

当院の専門診療で漢方治療がありますので、説明していきます。

漢方治療は円形脱毛症(自己免疫脱毛症)を含んだ全てのタイプの脱毛症に併用治療も含めると有用な治療手段と考えます。

漢方は構成される生薬の作用にて、抗炎症、抗酸化、免疫強化、自律神経改善、冷え性改善、虚弱改善、血流改善と多彩な作用を有しています。

円形脱毛症(自己免疫性脱毛症)の当方の見解

北里大学東洋医学研究所の先代所長の花輪壽彦先生の著書「漢方診療のレッスン」では、円形脱毛症は心身症の一環と記されています。

心身症とは原因としてストレスが考えられる、心と体の様々な病気の事です。

世の中で円形脱毛症(自己免疫性脱毛症)=ストレスのような話と同じ事です。

 では、当院で延10000人以上診療して分かった事をお伝えします。

正確には、「円形脱毛症(自己免疫性脱毛症)はストレスの時も結構ある」です。

もっと厳密には、「円形脱毛症(自己免疫性脱毛症)は生活習慣病である」が現段階では一番正しい見解と辿り着きました。

円形脱毛症(自己免疫性脱毛症)の東洋医学としての病態

当院にて多くの患者さんに漢方を併用して、円形脱毛症(自己免疫性脱毛症)の治療を行ってきました。

現在その詳細を集計分析しており、近い将来に当サイトに掲載する予定ですが、ほぼすべての人に共通する事として以下の病態がある事が判明しつつあります。

 

円形脱毛症(自己免疫性脱毛症)の患者さんの病態のメインは、

・自律神経失調症(東洋医学で言う気滞/気うつ/血虚)

・体力低下/疲れ(東洋医学で言う気虚/血虚)

でした。

更に女性の場合は、経血(生理の出血)による定期的な出血があるため、基本的に体力低下と自律神経失調症(血虚)をベースに抱えています。

 

中医学(中国で行われている東洋医学)で言うと、肝(肝臓)と脾(機能としての腸)の不調と考える事が出来ます。

現代社会で言うストレスは怒りの感情と思い悩みでほぼ構成されています。

怒りは肝(肝臓)を悪くして、肝が悪くなると中医学では自律神経失調症になってしまいます。

思い悩みは脾(機能としての腸)を悪くし、脾が悪くなると自律神経失調症と体力低下/疲れが生じます。

また、肝(肝臓)が悪くなると、連動して脾(機能としての腸)が悪くなるのも分かっています。

ストレスで過敏性腸炎が悪くなるのも、この原理で説明できます。

肝が悪くなると自律神経失調症に伴う炎症反応が起こりますので、炎症反応を抑える事も必要になります。

 

他にも別の病態があります。

・腹部の冷え(裏寒)

お腹が冷えると脾(機能としての腸)が悪くなると解釈できます。

・生来の虚弱体質(腎虚)

腎(腎臓)が元々弱いと、病気を起こす直接の引き金から全頭型/全身性脱毛症になっていく、薬が止められなくなる脱毛症になっていくケースがあります。

 

円形脱毛症(自己免疫性脱毛症)の漢方治療の実際

上記病状から、以下の生薬が男女共通に頻用されます。

柴胡/竜骨/牡蛎:自律神経調整 黄芩/山梔子:抗炎症 人参/黄耆/生姜(乾姜)/大棗:体力回復

 

女性は経血による血液の喪失(血虚)が基本的にはありますので、補血剤を頻用します。

当帰/地黄/芍薬/川芎:補血剤


 

 上記生薬が含まれていて、診療で頻用される主な漢方薬は以下となります。

 

1メインが自律神経調整の漢方薬

・柴胡加竜骨牡蛎湯(柴胡、黄芩、人参、大棗、竜骨、牡蛎)

・小柴胡湯(柴胡、黄芩、人参、大棗、甘草)

・大柴胡湯(柴胡、黄芩、大棗、生姜、芍薬)

・柴胡桂枝湯(柴胡、黄芩、甘草、芍薬、大棗、生姜、人参)

・柴胡桂枝乾姜湯(柴胡、黄芩、牡蛎、甘草、乾姜)

・加味逍遙散(柴胡、芍薬、当帰、山梔子、甘草、生姜)

・抑肝散/抑肝散加陳皮半夏(柴胡、当帰、川芎、甘草)

 

2メインが体力回復の漢方薬

・四君子湯/六君子湯(人参、甘草)

・補中益気湯(人参、黄耆、当帰、柴胡、大棗、生姜、甘草)

・十全大補湯(人参、甘草、芍薬、当帰、地黄、川芎)

・人参養栄湯(人参、黄耆、当帰、芍薬、地黄、甘草)

・加味帰脾湯(柴胡、山梔子、人参、黄耆、当帰、生姜、大棗、甘草)

・帰脾湯(人参、黄耆、当帰、生姜、大棗、甘草)

 

3 補血作用のある漢方

・四物湯(当帰、芍薬、地黄、川芎)

・温経湯(当帰、芍薬川芎)

・当帰芍薬散(当帰、芍薬、川芎)

・温清飲(当帰、芍薬、地黄、川芎)

 

腎虚と裏寒の話は割愛します。

漢方治療のメリットと限界

漢方により治療する事は自律神経の不調の改善と体力回復と冷え性から治していきますので、円形脱毛症が治ると同時に自律神経失調症と体力低下に伴う様々な症状(未病)も改善して、心身元気な状態も同時に手に入る事が見込まれます。

しかし、漢方自体も原則生薬による対症療法となりますので、生活習慣の見直し、他の代替医療の導入、より根本的な原因からの問題解決をしない限りは、投薬による現状維持が続きかねないと考える事が出来ます。

漢方治療におけるよくある質問

1.漢方治療に副作用はありますか?

漢方にて治療を行った場合は、深刻な問題になりうる副作用はほぼありません。

ごくまれに肝機能障害、腸間膜静脈閉塞症が見られます。

下痢にする作用のある漢方を使った場合、耐えられない下痢を副作用と判断する方がいますが、それは薬の作用です。

特に女性の患者さんで多いのですが、不慣れな薬を内服すると交感神経が緊張して、漢方を内服した時に嘔気/嘔吐を生じる方がいて、それを副作用という方がいますが、それは単なる自律神経失調症の一環です。

 

2.漢方の内服の仕方はどんな感じですか?

古典的な内服方法だと食事の前に1日3回内服とされていますが、食後で効果を実感できる場合は食後でOKです。

3回の内服は、必ずしも昼食前後でなくともよくて、起床後や就寝前でもよいです。

また、昼食分を朝食/夕食時に2回内服でもOKです。

 

3.費用はどれ位でしょうか?

クリニックでは受診時に3割負担で600円~2500円程度が見積もられます。

当院の場合は、3割負担で30日分で税込6000円位の費用が薬局で必要になると思います。

 

4.漢方治療ではどれ位の通院ペースになりますか?

薬効が安定するまでは2週間に1回、薬効が安定すると月1回の通院となります。